第77話
目次
第76話のおさらい
机で文庫本を広げる高校生の近藤。あきらが近づき写真を差し出す。
呆然とあきらを見つめる近藤に対して、あきらは睨むような視線を送って写真を受け取るのを待つ。
陸上のユニフォームを着て走っているあきらの写真を受け取り、近藤はあきらに礼を言う。
しかしあきらは写真を渡すとさっさとクラスメートの女の子の元へと行ってしまう。
近藤はそんなあきらの後姿を目で追っていた。
放課後のチャイムが鳴り、図書室で学生新聞の原稿を書く近藤の耳にピピ-ッ、という笛の音が聞こえる。
窓の外、グラウンドでは女子陸上部の練習が行われている。
集中して練習しているあきらの姿を近藤はただ図書室の窓際で見つめている。
登校時、背後であきらに挨拶をする声が聞こえる。
はるかと会話しているあきらの様子を近藤は振り返って見つめる。
教壇の楠先生から現国のテストが返却される。
出来の良い答案を褒められる近藤。
教壇に向かうあきらと席に戻る近藤がすれ違う。
あきらは真っ直ぐ教壇を見ているのに対して、ついついあきらを見てしまう近藤。
赤点はレポート提出、という楠先生の言葉に表情を曇らせるあきら。
食堂でも、近藤は気づくとあきらの様子を見ていた。
放課後、強い雨が図書室の窓を叩いている。
近藤は、学生新聞の原稿を書くのもほどほどに、あきらから受け取った、陸上ユニフォーム姿で走るあきらの写真を見つめる。
そんな近藤にあきらが何をしてるのと声をかける。
新聞委員として原稿を書いていると説明する近藤。
あきらはどうして図書館に来たのかと問い返す。
あきらはそれに対して、雨で部活が休みだから現国のレポートを書きに来たと答える。
近藤が、現国が赤点だったのか、と驚いてみせるのを不愉快そうに睨むあきら。
あきらは「近藤小劇場」という見出しを見つける。
ショートストーリーを連載していると答える近藤。
あきらはそれを読み、ハイ、と原稿を返す。
感想が無かったことに落ち込む近藤。
あきらはそんな近藤に構わず、図書室は静かなんだ、と呟く。
「雨、はやくやまないかなァ…」
どこを見るともなく見ながら呟くあきら。
近藤は、そうだね、と答える一方、あきらとの二人の時間が終わる事を惜しむ。
ブシュー、という音で近藤が我に返る。
暖房器具の加湿の水が切れた合図だったのに気付き、近藤は台所でやかんに水を入れる。
その最中、近藤は、あきらと同級生だったなら会話すら満足に出来ない関係だったかもしれないと思い至っていた。
おずおずとした態度で、トイレを借りたい、と訴えて来るあきらにトイレの方向を指さす近藤。
近藤は水を入れたやかんを居間に持って行くと、あきらのコートがハンガーにかかっていないのに気づき、自分のコートの隣にかける。
それを腕組みして見つめたあと、マフラーの入った紙袋の中の手紙を手に取る。
(人生というのはよくわからないものだな。)
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第77話
書斎
トイレから出てきたあきらが、店長が自分が渡したプレゼントの中の手紙を持っている場面に居合わせる。
「それ…今読むんですか?」
気まずそうに近藤に訊ねるあきら。
「え、あ―――いやぁ…」
近藤も気まずさにしどももどろになってから、キリ、と顔を引き締める。
「橘さんが帰ったら見させて頂きます。」
あきらのマフラーが入っている紙袋に手紙をしまう。
近藤は、つぶにおやつをあげる時間だ、と書斎になっている隣の部屋を開ける。
あきらは、近藤が明けた隣の部屋を近藤の背後からじっと覗き込む。
こっちの部屋は寒いな、と近藤は身体を屈めながら書斎に入っていく。
近藤は、最近は居間でタバコを吸うからつぶの居場所を書斎に移した、とあきらに説明しながら餌の袋を開ける。
近藤の言葉に反応せずにじっと書斎を見ているあきらに近藤が気付き、あきらの前に立ち、すごい散らかってるでしょ、と誤魔化すような笑顔を浮かべる。
「この部屋はもう万年こんなカンジで…」
ハハ、と笑う。
床には丸められた書き損じの原稿用紙、ちひろの出版した「インド放浪記」、タバコの箱。
本棚やデスクライトにはメモがびっしりと貼られている。
寒さに震え、居間に戻る近藤。
コーヒーを淹れ直そう、とあきらに居間に戻るように促す。
あきらはじっとつぶが自分の巣に顔を突っ込んでいる姿を見ている。
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質問
淹れ直したコーヒーが今のこたつの上で湯気を立てている。
「店長っていつから小説書いてるんですか?」
あきらが問いかける。
近藤は少し考えて、きちんと書き始めたのは高校生くらいからだと答える。
高校の時に新聞委員として記事を書き、連載していたショートストーリーが初だと続ける。
「ちゃんとって言っても、今読み返したらヒドいんだろうけど。」
ハハハ、と笑う近藤。
思いがけず高校時代の近藤の話を聞いたあきらは、一緒のクラスに近藤が同級生としている世界を想像する。
堂々としている近藤
学校。チャイムが鳴る。
教室であきらが椅子に座り、ぼーっとしながらイヤホンで音楽を聴いている。
そこへ、橘、と近藤が声をかける。
あきらは近藤を見上げながら右耳のイヤホンを外す。
近藤は学生新聞で陸上大会の記事を書きたいから軽くインタビューをさせてもらえないか、と堂々と頼む。
「え…別にいいけど…」
「お、マジか。」
「じゃあ悪ィんだけど放課後時間ある時図書室に来てくれる?」
笑顔であきらの前から去ろうとする近藤。
「あと大会の写真一枚もらえると助かる。」
左手をあきらに向けてお願いするように立て、よろしく! と去っていく。
あきらは近藤が行ってしまった後も、じっとその方向を見つめている。
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近藤が気になるあきら
放課後の運動場。
サッカー部が練習をしている。
「こないだの大会の写真ってはるか持ってるよね?」
あきらは隣で自分と同じくストレッチをしているはるかに訊ねる。
肯定したはるかに、あきらは自分が写っている写真が一枚欲しい、と言うあきら。
配るようにまとめているけど、それは急ぎ? とはるかに問われたあきらは、うん、多分、と返す。
明日持って来る、と言ってはるかはあきらから離れていく。
あきらがふと上を見上げると図書室の窓際であきらに背を向けて本棚で本を物色している近藤の後姿を見つける。
あきらは、近藤のその姿をじっと見上げている。
近藤が本棚から離れていくと、まるでそれを追いかけるようにあきらも一歩足を踏みだす。
「あきら右――――ッ!!」
え? と自分に向けられた唐突な叫びに一瞬呆けるあきら。
「わッ!」
次の瞬間、サッカーボールが右から自分に迫っている事を察知してギリギリでしゃがんで直撃を避ける。
はるかは、すみませーん、と言ってサッカー部に向けてボールを放る。
「ちょっとあきら~~」
座っているあきらを覗き込むように見つめるはるか。
「サッカー部の領域に入ったらダメってこないだ言われたばっかじゃん!」
気を付けてよね、というはるかの言葉をあきらは地面に座ったまま黙って聞いている。
もう既に図書室には近藤の姿は見えない。
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図書室に行くタイミングが合わない事にやきもきするあきら
朝。
あきらは笑顔で挨拶しながらはるかに駆け寄る。
おはよ、と返したはるかに、あきらが笑顔で尋ねる。
「写真は?」
はるかは、忘れてしまったと謝り、そして、急ぎなのかと慌てた様子で問いかける。
「やー…」
答えようとしたあきらは視界に文庫本を片手に歩いている近藤の姿を捉える。
あきらには気づいていない。
「明日でも大丈夫?」
申し訳なさそうにあきらに聞くはるか。
「多分大丈夫。」
あきらははるかに笑顔を向ける。
教室は賑やかなクラスメート達の声で溢れている。
近藤は自分の机につき、前の席のちひろと楽しそうに本の話をしている。
あきらは窓際の自分の席で頬杖をついて近藤を見つめている。
翌日、はるかから写真を受け取るあきら。
あきらは手に持った写真からはるかに視線を移して切り出す。
「今日の部活さ…」
「あ!」
タイミングの妙で、はるかはあきらの言葉を悪気なく遮る。
「今日先生があきらのフォーム録画したいから部活早めに来てほしいって!」
「あー…わかった…」
あきらは先ほど切り出した話をすることなくその場を終える。
放課後。
あきらは運動場から図書室の窓を見上げている。
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図書室に行けないあきらを救ったのは……
翌日。
チャイムが鳴り、食堂に移動するあきらとはるか。
「あのさ、今日部活の途中さ…」
「橘せんぱーい!」
食券の券売機の前であきらがはるかに昨日切り出そうとした話をしようとすると、背後からの声に邪魔される。
目を輝かせて一年生の陸上部員の三人がぱたぱたと駆け寄ってくる。
「あの! 今日一年のフォーム見てもらっていいですかー!?」
うん、いいけど、と答えるあきら。
「やった―――♪」
一年生の三人は無邪気に喜ぶ。
はるかはあきらの隣で、よかったねー、と笑顔で三人の一年部員を見つめる。
あきらがぶとテーブルの方を見ると、近藤と目が合う。
わいわい、という食堂の喧騒があきらの耳に大きく響ていく。
「じゃあ先輩! よろしくお願いしまーすっ」
後輩の言葉に反応せず、近藤をじっと見つめるあきら。
近藤はあきらの視線に対してじっと見返した後、食事を続ける。
早くしないと昼休み終わっちゃうよ、とはるかがあきらに声をかける。
あきらは反応せずその場に立ち尽くし、じっと近藤を見つめている。
翌日も後輩三人から頼まれ、いいよ、と答えるあきら。
その顔は少し強張っている。
さらに翌日。
(今日こそ…)
あきらはベランダで、外を見つめながらイヤホンで音楽を聴いている。
せんぱーい、と三人の後輩があきらに声をかける。
あきらは思わず、がくっ、と項垂れる。
あきらの腕に、ぽつ、と雨の雫が落ちる。
顔を上げたあきらの視界には、地面に雨が勢い良く降り注ぐ光景が広がっている。
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ようやく図書室
あきらは図書室に向かって急ぐ。
図書室に駆け込むように扉を開けるとテーブルで原稿に向かっている近藤の姿を発見する。
近藤に近寄り、近藤、と声をかける。
「ごめん! なかなか来れなくて…」
「お――――…」
顔を上げた近藤はあきらをじっと見つめる。
「もう来ないかと思ったわ…」
あきらは、色々あって…、と訳を説明しようとする。
「なんか学食でもにらまれたし。」
あきらは、近藤からの思わぬ一言に、え? と一瞬言葉を失い、目を丸くしてから慌てて突っ込む。
「にらんでないし!」
近藤は、そうなの? とあきらの態度に動じる事無く答える。
図書室では静かに、と注意してから、くす、と笑う。
近藤に笑われた事を不思議がるあきら。
「いや、橘って図書室が似合わねーなー。」
くくく、と笑う近藤。
あきらは何と返したものか困り黙ってしまう。
「陸上部だもんな。雨の日は退屈だろ。」
近藤は原稿に視線を移しながらあきらに問いかける。
「……それは…」
あきらは椅子を引き、肩にかけていた鞄を下ろす。
「晴れてるほうがうれしいけど…」
ザアアアアア、という雨音が図書室に響く。
あきらは近藤と向かい合って座る。
「雨の日も…たまには悪くないなって…思うよ。」
近藤は原稿に向かったまま微かに笑みを浮かべる。
あきらの質問にドキっとする近藤
こたつに入ったままじっと考えていたあきらは、店長、と斜向かいの位置でタバコを吸っている近藤に声をかける。
「学生時代 運動部と接点とかありましたか?」
「え!?」
内心ドキっとし、慌てる近藤。
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感想
近藤の方がリアルな想像だった(笑)
前回は「近藤が想像したあきらのいる高校生活」だったけど、今回は逆であきらが想像するパターンだった。
近藤が落ち着きがあっていい感じの高校生になっている!
これは、あきらの目には近藤はこう見えてるということ。
しかし、残念ながら前回のオタオタしてる高校生の近藤の方がリアルだと思う。何しろ本人の想像だし(笑)。
高校時代の近藤は、あきらの想像した近藤のように動じないで落ち着いている高校生ではなかっただろう。
今回の話のラストであきらの質問にドキっとしている所からも、あきらの想像の方が理想化されていたのが読み取れる。
あきらの想像していた高校生の近藤は、今現在の、たまらなく近藤が好き、という前提の延長から出来上がっているから近藤が理想化されてる。
それに対して、前回の近藤の想像上の同級生としてのあきらは、近藤が好きという前提無しに、フラットな状態のあきらだった。
これは45歳まで人生を歩んできた大人と、子供の差なのか。それとも個人の性格の差なのか。
どっちかと言えば前者だと思うんだよなぁ。
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あきらの手紙
あきらが近藤に渡したプレゼントの中の手紙は、一体何が書かれているのか。
そもそも、あきらはやんわりと近藤に対して、自分がいる前では読まないでね、という空気を出していた。
内容としては、おそらく近藤が好きだと既に告白しているので今更手紙にそれを書く事はないだろう。
月並みなところでは、日頃の感謝かな?
単に、一生懸命心を込めて書いた手紙を自分の目の前で読まれるというのは恥ずかしいものだからあきらは近藤が手紙を読もうとしていたのを止めただけなのかもしれない。
しかしあきらは、わざわざ元旦に、ある種の決意を秘めて近藤の家を訪ねているはず。
一体何を伝えたくて近藤の家を訪ねたのか。これでまた二週……いや、合併号なので三週間後はキツイ。
恋は雨上がりのように第77話のネタバレを含む感想と考察でした。
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