恋は雨上がりのように最新第75話の感想(ネタバレ含む)と考察。雪の静寂が二人を包む。そして近藤の心に去来する想い。

恋は雨上がりのように第75話 近藤とあきら
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第75話

第74話のおさらい

小説を書く手を止め、降り続く雪を見て近藤は食事の買い出しを控えることに。

近藤は食事の前に風呂に入っていると、シャワーの音に紛れて玄関のチャイムのような音を耳にする。
恋は雨上がりのように第74話 近藤
気のせいかと考えていた近藤だったが、あきらは近藤の部屋を訪ねていたのだった。
恋は雨上がりのように第74話 あきら
風呂から上がり、食事を済ませて一服する近藤。

ベッドにもたれ掛かるように背伸びをして、ふと傍らの携帯に目をやると、ライトが点滅しているのに気づく。

携帯をチェックすると、あきらからのメールが来ている。

それを見てさっき自分が風呂に入っている時に聞いた気がしたチャイムの音があきらが鳴らしていたものではないかと思い当たり、勢いよく玄関のドアを開ける。

外には誰もいない。しかしドアノブにマフラーの入った紙袋がかかっているのに気付き、中を確認すると封筒が入っている。
封筒の署名は「橘あきら」。

あきらは白樺コーポから帰っていると、背後からマフラーを片手に必死に走ってくる近藤に呼び止められる。

「ちょっと早いけど…お誕生日おめでとうございます。」

あきらのお祝いの言葉に少し照れる近藤。

近藤の部屋の前に戻る二人。

あきらを外で待たせ、近藤は部屋の片づけを諦めて換気だけしてあきらを部屋に招き入れる。

あきらが入ってくる傍らで、玄関のドアを支える近藤の内にある予感が走る。

(なんだかこれきり橘さんと会えなくなるような気がする。)

近藤はその予感を胸の内に抑えつけ、何事も無いようにあきらに飲み物はインスタントのコーヒーで良いかと尋ねる。

良い笑顔で、はい、と答えるあきら。

恋は雨上がりのように第74話 近藤とあきら
前回74話の詳細は以下をクリックしてくださいね。

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第75話

巻かれている美しい反物を手に現れた雪女。

 

近藤が雪女が目の前で見せる反物に見惚れている。

恋は雨上がりのように第75話 近藤とあきら

 

(私にもなにかおくれ。)
雪女が近藤に語り掛ける。

 

(こんな大そうなもの わたしは持っておりません。)
近藤は反物を手に、雪女を見上げながら答える。

 

近藤を見つめる雪女。

 

(ならばうばおう。)
そして、雪女の手がゆっくりと近藤に向けて差し伸べられる。
(お前の心を…)

 

コンロの火が勢いよく点く。
その上に近藤がヤカンを載せる。

 

(雪女ってどんな話だったっけ…)
ぼんやりとヤカンに目を投じたまま物思いに耽る近藤。

 

くしゅんっ、という隣の部屋からの音に気を取り戻し、ドアを開けて声をあきらに笑顔で声をかける。
「橘さん、ストーブの近く座りなよ。」

 

こたつに入っているあきらは、少し離れたところにあるストーブを見てから、ふと何かに気づく。

 

あきらの傍らに置かれている、文章で埋まっている原稿用紙。何枚も重ねられた原稿の上にはペンが置かれている。

恋は雨上がりのように第75話 原稿用紙


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近藤が楽しそうだった理由

ヤカンが音を鳴らし、コーヒーを淹れたカップを二つ手にした近藤が足でドアを開く。
近藤は立ち止まり、あきらに目を投じる。

 

あきらは背筋を伸ばしてこたつに入っている。

恋は雨上がりのように第75話 あきら

近藤があきらの目の前にコーヒーを置く。

 

ありがとうございます、と礼を言って、あきらは近藤に問いかける。
「あの…」

 

近藤はあきらの斜向かいに腰を下ろす。
湯呑に口をつけながら、ん? とあきらを見る。

 

「店長…小説書いてるんですか?」

近藤はあきらからの質問に、口に含んでいたコーヒーを、ブッ、と吹きだす。
ゲホゲホと咳こみながら、原稿が出しっぱなしだったとあきらが何故そんな質問をしたのか、その原因に思い至る。

恋は雨上がりのように第75話 近藤

 

「……」
あきらは近藤の顔を見ながら答えを待っている。
その傍らには原稿が置かれている。
あきらによって触れられた形跡は無い。

 

近藤は、ンンッ、と喉を整える。
「うん、最近また書きはじめてる。」
目を閉じたまま、少し照れながらも答える。
書いてたこと知らないだろうけど、と続ける近藤。

 

あきらは頬を染めながら近藤の顔を見て、さらに質問をする。
「もしかして、ここのところずっと書いてましたか?」

 

え? とあきらの顔を見ながら近藤が声を上げる。
しかし直ぐに、書いてた…かな、と答え、ハハ、と力なく笑う。

 

そう答える近藤をじっと見つめるあきら。
(店長が楽しそうに見えた理由って…)
あきらは俯き加減になりながら、最近感じていた事に原因を見つけて納得している。

 

「この正月も…」
平静を取り戻した近藤が切り出す。

 

自分の考えの中にいたあきらが気を取り戻す。

 

「ずーっと書いてようって、決めてたんだ。」

 

落ち着いていながらも、充実した表情を垣間見せた近藤の表情をじっと見るあきら。

 

おかげで部屋がこんなありさまだけど、とごちゃごちゃになっている部屋の状況を近藤が笑う。

 

あきらは笑うことなく、すみません、そんな時に…、と若干申し訳なさそうな表情で近藤に謝る。

 

近藤は手をパタパタと横に振りながら、ちょうとひと息ついたところだったから大丈夫、とすかさすあきらをフォローする。


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静寂

「でもびっくりしたよ こんな雪の日に。」
近藤がうまく話題を切り替える。
「よく電車動いてたねぇ。外、どこもつもってるんでしょ?」

 

あきらは、はい、と答えながら、何かに思い当たり、キョロキョロと部屋を見回し始める。

恋は雨上がりのように第75話 あきら

 

ストーブの横にあるゴミ箱。

棚の上には紙袋。

 

一通り見回した後、あきらがぽつりと漏らす。
「…この部屋、テレビが…」

 

湯呑を傾けようとしていた近藤があきらの言葉に動きを止める。

 

あきらは近藤の答えを待つようにじっとその表情を見つめる。

 

「ない。」
近藤が、へら、と笑いながら答える。

軽く衝撃を受けるあきら。

恋は雨上がりのように第75話 近藤とあきら

 

「いや~~~」
近藤は笑顔を浮かべたまま手を後頭部に当てている。
「数年前はあったんだけど、どうも苦手で…」

 

「ニュースはラジオがあるし、」

 

あきらは近藤が答えるのをじっと黙って聞いている。

 

「って、昨日ガーデンに忘れてきちゃったんだけど。」

「だからこんな静かな雪の日は…まるで世界に自分しか居ないような、そんな気分になる。」

「世界に自分だけ…」
近藤の答えがひと段落し、あきらがぽつりと近藤の言葉をオウム返しする。

 

「そう、僕らだけ。」
目を閉じ、あきらの言葉を補強するように言葉を返す近藤。

恋は雨上がりのように第75話 近藤

 

あきらはその近藤の言葉を聞き、自分もゆっくりと目を閉じる。

 

こたつに入ったまま、静かに目を閉じる二人。

 

部屋が静寂に満たされる。

 

「…どうして雪の日ってこんなに静かなんだろう。」

 

ぽつりと漏らしたあきらの一言に、それは雪が音を吸収するからだよ、と近藤がすぐに答える。

 

吸収? と不思議そうな顔をするあきら。

 

「雪の結晶って複雑な形をしてるでしょ。音が当たってもはね返らずに吸収されるんだって。」

 

あきらは近藤の詳しい説明を聞き、知らなかった…、と呟く。


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良い雰囲気

近藤はあきらに笑顔で頷いてみせる。
そしてあきらがコーヒーの入ったカップに口をつけていない事に気づく。
「あっと ごめん! 橘さんブラック苦手なんだったよね!」

 

あ…、と答えに詰まるあきら。

 

よーし、と近藤が立ち上がる。
「今日は雪の日特別バージョン。」
スタスタと窓際に近づき、窓を開ける。

 

外は雪が降っている。

 

注目、と近藤は笑顔を浮かべて右の手のひらをあきらに見せる。

 

あきらはこたつに入ったまま、首だけ近藤に向けながら頷く。

 

「よっ。」
近藤は右手を外に突き出し、グッと握りしめる。
「ほっ。つかまえた!」

 

つかまえた? と近藤の行動を不思議そうに見つめるあきら。

恋は雨上がりのように第75話 あきら

 

近藤があきらに歩み寄り、閉じている右手をあきらの前で開いて見せる。

 

その掌の上にはsugarと印刷された包装紙でパッケージされた角砂糖が一個載っている。

 

「角砂糖!」
あきらは驚きながら、近藤から受け取った角砂糖を左手の親指と人差し指で持ち、じっと見ている。

恋は雨上がりのように第75話 あきら

 

近藤はあきらの反応の良さに、くす、と笑う。

 

「ありがとうございます!」
近藤に笑顔を向けるあきら。

 

近藤は一瞬あきらに見惚れ、うん…、とすぐに、静かに返事をする。

恋は雨上がりのように第75話 近藤とあきら

 

あきらはご機嫌な様子で包装紙を開けている。

 

(こんな静かな日だからだろうか。)

 

近藤は窓を閉める。

 

(普段言えないような言葉を口にしそうになるのは。)

 

あきらは、手に持ったコーヒーの入ったカップを笑顔で見つめている。

 

(それも雪が吸い込んでくれるだろうか。)

 

雪は降り続いている。


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感想

いよいよ次回、近藤があきらに告白か?

 

なんか、めちゃくちゃ雰囲気良くない?

 

あきらはともかく、近藤の方も何か準備が整ったみたいな感じなってる。
それもごく自然な流れで。

 

実際、今回の話は良い雰囲気が流れており、いい感じだと思う。

 

ただ、冒頭の雪女の導入だけは不吉な感じがしたな。

 

雪女が持っていた反物は、近藤があきらから色々なものをもらったというメタファーだろう。
あきらがガーデンで働くようになって以来、近藤は自身が何も変わっていないのにも関わらず楽しいと思うことが増えたような気がすると思い当たるシーンがあった。

 

あきらから真っ直ぐな好意をぶつけられて、なぜ自分のことが好きなのかあきらに聞いてもその理由がはっきりとは分からず、なによりもその倍以上離れた年齢差などに戸惑いながらも、近藤はこれまでの日々をあきらからのかけがえの無い贈り物だと考えているのではないか。

 

ただ、その反物――あきらから得た日々に見合う何かを返すことが出来るかと言えば、正直者の近藤には、それは出来ないと言うより他は無かった。

 

そして雪女は、では心を奪うと言って近藤に向けて手を伸ばした。

 

ちょっと不吉な予感がするんだよなぁ……。
前話のラスト、あきらと会えなくなるような気がする、と近藤が予感するシーンを引っ張っているだけなのかもしれないけど……。
とはいえ前話でまだ物語内ではそのシーンの直後だから、その流れでの雪女と思えば自然だと思う。

 

近藤は、雪女の話がどんなだったか詳細な部分まで思い出す前に考えるのを止めてしまった。

 

そこにも悲劇の伏線を読み取ってしまう自分が悲しい……。


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自分も雪女に関して一体どんな話か忘れていたので青空文庫で読んだけど、反物は出てこなかったな。

 

ちょっと長いけど、雪女の話の要約。

 

きこりの老人と、そのアシスタントの若い男が吹雪の小屋で一夜を明かすことになる。

寒さに目を覚ました若い男は、小屋の扉が開け放たれ、吹雪が屋内に吹き込んできているのに気づく。

老人の方を見ると老人の側に屈んで顔に息を吹きかけている白装束の女がいる。

その視線に気付いた女は若い男に近づいていき、老人に対してしていたように屈む。

若い男は恐怖するも叫ぶことが出来ず、白装束の女を直視していると、美しい事に気づく。

女は男に、見逃してやる代わりに今夜の事を絶対に誰にもしゃべるなと言って姿を消す。

翌朝、若い男は昨夜の事は夢なのかと思うも、老人が凍ったように冷たくなって息をひきとっていることに気付いて暫く心を病む。

時間が経って、男が職に復帰したある日、仕事の後、帰宅する男と同じ道を同じ方角に歩いていく女がいることに気づく。

親類を頼って江戸に向かっているというその美しい女と会話するうち、男は女が心に決めている人がいるのかどうかが気になって仕方なくなる。

結婚を考えているような相手はいないと答えた女性に、男は自分もそうだと言い、とりあえず自分の家に来いと女を伴って帰宅する。

江戸に向かうのを遅らせ、いつまでも逗留したらよいという男に絆された女は、いつしか男と結婚することに。

10人もの子宝に恵まれるが、ある日、男は妻に対して若い頃の小屋で会った白装束の女に関して話してしまう。

すると妻は、それは私の事だと言い、子供がいるから命は奪わないが、子供に不自由をさせたならそれ相応のお返しをする、と言って白い靄に姿を変えて天に昇って行ってしまう。

あきらが持っていた反物を見て、鶴の恩返しを連想した。

 

別に若い男は恩を返されるような事はしてないけど、オチは鶴の恩返しに似ているなぁ。
というか、おとぎ話はこのパターン結構多いか。

 

雪女にしても鶴の恩返しにしても、ラストは男の前から妻が姿を消すんだけど、近藤はそういう結果を予期しているのかも……。

 

仮に付き合ったところで、自分の前からある日突然、白い靄になって、あるいは鶴になって姿を消してしまう、そんな予感。

 

近藤の脳内で描かれた雪女に扮したあきらが美しい反物を持っている姿というのは、つまりはそんな危惧が、近藤の心の内で無意識に働いている結果ではないか。


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今はあきらは近藤の彼女というわけではないけど、でも継続的に自分に対して強い好意を抱いてくれている事は近藤に伝わっている。

 

近藤だってあきらの事が好きなんだと自覚した。

 

近藤があきらに対する好意を自覚するまでに時間がかかっているけど、その間もあきらは意気消沈することなく、心変わりすることなく近藤を好きでいてくれている。

 

多分、告白すればあきらと受け入れられると近藤は思っているだろう。
そして、望めば付き合えるとも。

 

しかし、前述した通り、自分は何も返せないから、返す自信が無いから、あきらは間もなく自分の前から去ってしまうのではないか、と考えている?

 

なんか考えれば考えるほど無粋な気がしてくるな、こういうの……。

 

あきらは近藤の部屋にマフラーを渡しに来たわけだけど、それだけじゃないだろう。

 

近藤との関係をはっきりさせたいと思ってるんじゃないかな。

そんな密かな決意を胸に、近藤にメールしたんだと思う。

 

あきらが近藤に連絡をとって、直接マフラーを渡すという行動に出たきっかけは、67話においてユイやはるかが自分よりも先に行ってしまったような感覚にとらわれた事と無関係ではないと思う。
恋は雨上がりのように第67話 ユイとはるか

 

いい加減、恋にせよ陸上にせよ前に進めて新しい地平を拓きたいと思ってるんじゃないかな。

 

1巻で誰にも相談せず、堂々と近藤に告白した時から感じていたけど、あきらは強い子だと思う。

 

もちろん近藤と付き合えれば近藤に首ったけ状態のあきらにとっては嬉しい事なんだろうけど、でも近藤との先が無いのであれば、それはそれで気持ちに整理をつけて前に進める強さを持ってると思う。

 

次回、近藤は告白するのかどうかが見どころになると思うけど、結局近藤は告白しないような気がするなぁ……。

 

で、あきらは一旦、近藤への気持ちに整理をつけて、陸上に専念するためにガーデンを辞める、と。

 

近藤が前回ラストで感じた「もう会えないかも」という予感は、そうした形で実現するのかもしれない。

 

以上、恋は雨上がりのように第75話のネタバレを含む感想と考察でした。

 

次回、第76話の詳細は以下をクリックしてください。

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第76話第75話のおさらいコーヒーを用意するために台所立つ近藤。 その脳裏には美しい雪女に扮したあきらが美しい反物を近藤に手渡し、あきらはその見返りを求める...

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