第71話
第70話のおさらい
ちひろは町田すいと橘あきら、二人の17歳の顔を思い出していた。
そこに以前パーティーで挨拶をして連絡先を交換していた町田すいからちひろのスマホに連絡が来る。
合流し、ファミレスに入る二人。
ちひろの小説は好きで全部読んでいると頬を紅潮させて興奮気味の町田の姿を見たり、町田すいが男子校に通っている等の情報を知っていく度に、ちひろの内で以前はいけ好かないと思っていた町田すいへの好感度は上がっていく。
将来は何になりたいか、と町田に問われたちひろは、質問に真っ直ぐに答えずに、こう見えて45歳だと暗に将来なんてものはないと答える。
町田はないんですか、と驚き、夢を語りだす。
ちひろは町田に対して、本の執筆をいい加減にやっているのかと問うが、町田は全て本気だと真剣に答える。
将来を語るには年を取り過ぎた、と悟ったように呟くちひろ。
「僕は17歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。」
町田はポール・ニザンの一節を捩って挑戦的な表情でちひろに向かって諳んじて見せる。
思わず感心するちひろに、さらに、年なんて関係ない、と町田は熱を込める。
町田はさらに、ちひろに向かって、45年小説の執筆というひとつのことに打ち込んでいて美しい、真正面から伝える。
町田に一目置き、さらに好感度がマックスまで上がっていたちひろは町田と友情を育む。
あきらは諸星整骨院に来ていた。
診察を終え、あきらは一瞬の間の後、何かを諸星に問おうとして踏みとどまる。
そんなあきらの様子に敏感に気づき対応した先生はあきらにあるものを渡す。
その頃、近藤は、部屋の中で執筆していた。
そこに現れたのは上機嫌のちひろ。
17歳の橘あきらについてからかっうのだった。
その頃、あきらはベッドに横になって「リハビリを始めるあなたに」という冊子を開くのだった。
前回70話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
スポンサーリンク
第71話
1年前の夏。
セミが鳴いている中、学校のチャイムが鳴る。
空は青く、入道雲が山にかかっている。
まだアキレス腱を怪我していない、イヤホンをしたあきらが学校のベランダに立ち、風景を見ている。
「あきらおまたせ――っ!」
はるかがあきらに背後から声をかける。
「HR長引いちゃって…部活行こ!」
あきらとはるかが並んで廊下を歩く。
「何聴いてたの?」
はるかがあきらに尋ねる。
あきらははるかにイヤホンを渡す。
「走りながら聴くと気持ちいいの、その曲。」
耳にイヤホンを入れたはるかに向かって続ける。
「はーっ 今日も暑いなァ~ また焼けちゃうよー。」
ワイシャツの襟元をパタパタさせるはるか。
その隣を、サッカーボールを持った山本先輩がすれ違う。
その目ははるかを追っている。
しかし、はるかも、プレーヤーを操作するあきらも山本の視線に全く気づかない。
女子陸上部の部室。
あきらがユニフォームに着替えている。
「あきら」
着替え途中のあきらに声をかけたはるかが笑顔で制汗スプレーをあきらにかける。
よーっし部活行くか、と着替えを終えた先輩が浮かない表情で呟く。
練習開始
青空と入道雲。
セミがけたたましく鳴いている。
高校前のバス停で、吉澤が一人バスを待っている。
暑さにやられてだらしない表情になっている。
ファイッオー、という掛け声が聞こえて吉澤が声がした方を見ると、遠くで集団が走っている。
ファイッオー、ファイッオー、とリズミカルに掛け声を掛けながら女子陸上部は学校の外周を走る。
「ガリガリ君ソーダ味…」
はるかが隣で走っているあきらだけに聞こえるようにボソッと呟く。
はるかの言葉に気付いたあきらは少し沈黙した後はるかに続く。
「セブンのキウイアイスバー。」
あきらがノッて来たことに気付くはるか。
「アイスボックスのアクエリアス入れ。」
はるかは少し頬を紅潮させてあきらに対して答える。
(……)
お互い目を逸らして走る。一瞬だけ沈黙が支配したあと、二人が顔を合わせて声を合わせる。
「やっぱり あんず屋のいちごかけ氷練乳がけ」
あきらとはるかの間で完全にダブる。
「そこの一年!! 心が折れそうになる私語は禁止ーッ!!」
先輩からあきらとはるかに対して突っ込みが入る。
先頭を走る女の子が、短距離組と長距離組と頑張る事で別れるよう号令を出す。
短距離組のあきらは引き返す集団と一緒に学校へ戻るが、途中で集団から抜けて外周の途中にある階段に向かう。
あきらは手すりに手を置いて登っていく。
階段の途中であきらが振り向く。
すると、そこからは学校の周囲にある家や近くの民家を見下ろすことが出来るのだった。
あきらは背伸びをする。そして一息つくと、ビュウ、と風が吹く。
「夏が流れてく…」
手すりに手を置き、笑顔で呟く。
スポンサーリンク
かき氷
時間が経過し、セミの鳴き方が変わっている。
「今日は以上、礼ッ!」
女子陸上部の女の子が号令をかける。
号令に合わせて、あっしたー、と礼をする他の楽員。
バスケットボールを行っている体育館の前を通るあきらとはるか。
「ウチもグラウンドにライトがついてればもっと走れるのにね。」
はるかがあきらに愚痴る。
剣道部が気合を入れて打ち合っている。
JAZZと書かれた貼り紙が貼られた部屋の中からはサックスやドラムの音が響く。
あきらはかき氷の入った器を手にし、一口スプーンで掬って口に運ぶ。
「生きかえる~~…」
あきらとはるかが同時に声を漏らす。
笑顔のあきらとはるか。
あきらとはるかはお店の前にあるベンチに腰かけている。
ミンミンとセミが鳴く。風鈴が鳴る。
かき氷を食べ終えたあきらとはるか。
「なんか眠くなってきちゃった…」
あきらが眠そうに呟く。
「ウチ寄ってく?」
はるかは隣に座るあきらの横顔を見ながら続ける。
「帰りお父さんに車で送ってもらってさ。」
うん……、と眠そうにうつらうつらと舟を漕ぎ始めるあきら。
そーしなよ、と笑顔で言ったはるかが何かに気づく。
「先輩!」
ベンチに座ったまま姿勢を正すはるか。
「あんたたちのせいでかき氷食べたくなっちゃっただろー。」
先輩ははるかに言い放つ。
もう一人の黒髪の先輩は店の奥のおばちゃんに向けて大きな声でかき氷の注文をしている。
「なに、橘どうしたの?」
先輩に何気ない様子で問われるがあきらは答えない。
あきらの様子をしっかり確認しようとあきらを覗き込むはるか。
二人の先輩があきらの表情を覗き込む。
「…寝てます。」
「マジかよ。」
セミが鳴いている。
感想
夏の平日、部活動に出た際のあきらとはるかの他愛もないやりとり。
まだ、あきらが怪我をすることなく、陸上を楽しめていた頃。
はるかはあきらが大好きなんだなと分かる。
あきらもはるかの事は好きなんだろうけど普段そこまでそういう面を見せることはないのかなと思った。
明らかにはるか→あきらの方が好意が強い感じがする。こういう不均衡は友情が崩れる前段階になり得る。ぜひ仲良くしてほしい。
あと、山本先輩はこの頃からはるかの事が気になっていたのか、と思った。
山本先輩はメチャクチャモテるのに1ねん経たないと話せなかったんだから意外と純情だったんだな。
ひょっとしたら、あきらが邪魔だったのかもしれない(笑)。
勿論そんなことは全然無いです。
なんか今回の話は高校時代の放課後の雰囲気を思い出しちゃうなぁ~。
この表現。本当にうまいと思う。
さて、次回はどうなるのか。
あきらはリハビリを開始するだろう。それは夏に間に合うのか?
以上、恋は雨上がりのように第71話のネタバレ感想と考察でした。
第72回でお願いします。
コメントを残す