第74話
第73話のおさらい
雨の降りしきる中、帰宅した加瀬を待ってい珠子。
珠子はシャワーを浴びた加瀬に唐突に謝り、もう部屋には来ないと一方的に告げる。
意味が分からず、一言、なんだよそれ、と呟く加瀬。
雨の降る中、今年最後の営業日を迎えたガーデンの事務所では、近藤が、店が終わった後、ユイの送別会を兼ねた毎年恒例の忘年会を行うと従業員に伝達していた。
そこに無言で加瀬が入ってくる。
明らかに不機嫌な様子を感じ取る一同。
寂しくなる、とため息をつき、吉澤に、いいのかよ、と問いかける大塚。
吉澤が何故オレなのかと問い返すと背後から、どけよ、と加瀬が肩をぶつけてくる。
レジで客に挨拶をあとボーッとフロアを見つめているユイにあきらが大丈夫かと声をかける。
ユイはガーデンでのバイトはもう終わりだと思うと寂しいのと同時に不思議だと感傷的になる。
あきらは明るく振舞い、「胸がときめくもの」の言い合いを持ちかけ、ユイは笑顔になる。
夜。事務所で店が終わるのを待っていたあきら、ユイ、吉澤の三人の元に久保が客が帰ったからと忘年会の開始を知らせる。
フロアにファミレスのメニューをたくさん並べ、皆思い思いの時間を過ごす。
事務所の電話が鳴っている事に気付き、近藤が事務所に向かうと、近藤がつけていたラジオは年越しまでのカウントダウンを知らせる。
ユイがいなくなることを惜しむ久保と会話するユイに加瀬が口元を歪めて問いかける。
「本当は、彼氏ができないから辞めるんじゃないの?」
カウントダウン5秒前、吉澤が加瀬に食って掛かろうとするよりも先にあきらが加瀬に正拳突きを見舞う。
フロアに戻った近藤の目の前には正拳を突き出したままのあきらとそのあきらに大丈夫かと問いかけるみんなの姿だった。
1月1日。
近藤は自宅で一人小説を書いているその背後に無造作に投げ出された携帯がチカチカと光っている。
あきらはリビングでテレビを見て笑っている母親に声もかけずに外に出かける。
その手にはマフラーの入った紙袋。
あきらは傘を差しながら雪の降る中を歩く。
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第74話
木の枝に停まった雀が、積もっていた雪を落とす。
小説の執筆に集中していた近藤は、その音に誘われ窓のカーテンを開けて外の様子を見る。
近藤は降り続く雪に軽く驚き、食事を買いに行くのを止めてカップ麺で妥協する。
食事の前に入浴することに。
窓のカーテンを閉める。
あきらは近藤のアパート「コーポ白樺」の前に傘を差して立り、近藤の部屋を見上げている。
もう片方の手にはあきらの編んだマフラーの入った紙袋。
近藤はシャワーを出しっぱなしにし、目を閉じてシャンプーをしている。
シャワーの音に紛れて何か音がしたことに気づく。
あきらが外でチャイムを鳴らしていた。
もう一度チャイムを鳴らし、あらかじめ近藤にメールしていたその連絡に対して返信が来ていないか確かめるあきら。
返信が無い事を特にがっかりもせず普通に受け入れ、近藤の部屋の前を立ち去る。
近藤は湯船に浸かりながらチャイムの音がしたような気がしていたとふと思い至る。
(気のせいか。こんな日に…)
風呂から出てからカップ麺で食事を済ませ、一服している近藤。
ベッドにもたれるようにして背伸びをすると、ふと傍らの携帯のランプが点滅していることに気づく。
携帯の画面を開くとそこにはあきらからのメールが来ていた。
■15/01/01 11:18
■橘あきら
■橘です。
明けまして
おめでとうございます。これから会えませんか?
-END-
近藤はそのメールの文面に見ながら少し考える。
「あっ」
すぐにさっきのチャイムのような音はあきらが来ていたということに思い至る。
「さっきの!?」
勢いよく玄関のドアを開くがそこには誰もいない。
こんな日に誰も来ないよな、と少しほっとして、下からのカサ、という音がするのを確認すると、外に面したドアノブにマフラーの入った紙袋の持ち手が掛かっている。
紙袋を開くと、その中に「店長へ」と書かれた封筒を見つける。
裏返して、封筒の封をしてある面を見るとその右下には「橘 あきら」と署名がある。
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あきらを追いかける近藤
あきらは雪の中を傘を差し、道路に積もった雪をブーツで踏みしめて歩いている。
俯きがちだが、その表情には悲壮感はなく、かといって渡せたことを嬉しいと思っている風でもない。
「橘さん!」
あきらの背後から勢いよく声がかかる。
あきらが振り向くと、そこにはあきらのマフラーを片手に持ちながら必死に走ってくる近藤の姿があった。
「よ、よかった…!」
近藤はあきらの目の前に両膝に両手をついて体を屈めて荒く息をする。
「会えてよかった…!!」
あきらは体を屈めて息を整えている近藤に手にあるマフラーに手を伸ばして受け取るとそれを近藤の首にふわっとまわす。
「ちょっと早いけど…お誕生日おめでとうございます。」
笑顔で近藤に伝えるあきら。
近藤はあきらからの祝福の言葉に一瞬あっけにとられたように止まる。
「あ、ありがとう…」
我に返ったように、恥ずかしそうに頬を染める。
「でも…」
寒そうに両腕を体にまわす近藤。
「なにもこんな日に…」
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予感
二人揃ってコーポ白樺に戻る。
玄関のドアを開け、片付けるから、とその場であきらに待つように伝える近藤。
ドアを閉めて、荒れた部屋をどう片付けるか途方に暮れる。
近藤は、換気だけしよう、と窓を開け、部屋のすぐ外で小さな雪だるまを作っているあきらを部屋に招き入れる。
「おじゃまします…」
少し照れた様子で部屋の中に足を踏み入れるあきら。
その脇で近藤は玄関のドアを支えながら、あきらの横顔をじっと見つめる。
(なんだか これきり)
(橘さんと会えなくなるような気がする。)
言い知れぬ予感が近藤の胸中に走る。
「橘さん。」
近藤はその予感をひとまず横に置き、あきらに飲み物を訊ねる。
「コーヒーでいい? インスタントだけど。」
あきらは自分でしていたマフラーを外し、笑顔で近藤に振り向く。
「はい。」
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感想
やはり前回の予想通り、物語は終局に向かっているようだ。
いくらなんても大学生編なんてやらないでしょ。
だってそれだと物語が間延びしてしまう……。
もちろん続いて欲しいとは思うけど。
近藤の予感通り、これっきりあきらに会えないまま物語が終了、ということは無いとだろうけど、あって一波乱くらいではないかな。
あきらが近藤の事を一方的に好き、という片想い状態から、近藤があきらの事を好きなんだと気づいて以来、気持ちの上では両想いだけど付き合うような関係には発展しなかった。
恋愛初心者のあきらがうまく踏み込めないという事以上に、近藤の内にある社会常識があきらとの関係成就を邪魔している。
というより、近藤の理性がきっちり働いている。これははっきり言って、非常にエライ。
あきらの魅力に抗える男なんてそうそういないだろう。
クラリスを抱き締めなかったルパン級にかっこいい。
いや、そんなことはないか……(笑)。
別に既に離婚した近藤は独身の身だし、法的にはくっついても問題は無いのだが、歳の差を考えるとあきらの将来を考えれば容易にくっつけないというのは非常に常識的な判断だ。
お互い片想いなのに、年齢差がネックが障害になるというのはとても悲しいことだけど……。
ただ今回、近藤の胸の内に走った「予感」が近藤を常識の枠からはみ出させる着火剤になるかもしれない。
近藤は既にあきらの事が好きだと自覚している。
そして、あきらが自分の事を好きでいてくれているということもひしひしと感じている。
そもそも、1巻の時点で、あきらからものすごく情熱的な告白も受けた。
しかし、あきらと付き合うような事態になっていないのは、ひとえに、先に述べたように近藤の理性――社会通念の賜物。
ただ、近藤は無意識のうちに自分があきらの心を手に入れていたと思っているのではないか。
自分の事を好きと言ってくれていて、しかも自分も好きな女性であるあきらともう会えなくなる。
言い方は悪いが、既にあきらは自分(近藤)に落ちているわけだ。
しかし近藤はその相手ともう会えない。つまり失うということ。
男、というよりも、人は、手に入っている物を失うことで行動に駆り立てられる。
100万円上げるよ、と言われるよりも、100万円失うよ、と言われた方が人は動く。これは真理。
人間ってそういうものだと思う。
近藤の内であきらを失うことに対する危機感や焦燥感がムクムクと湧き上がり、近藤から積極的にあきらを求めるようになる気がする。
ただ、いざ近藤があきらの方に気持ちを向ける覚悟が出来ても、あきらの方が陸上に夢中になってフェードアウトするおそれがある。
恋愛においてタイミングは非常に重要なファクターだと思う。
あきらはもう近藤が好きだという気持ちが全くブレていない。
生来の性格もあるんだろうけど、落ち着いている。
恋愛は初めてで戸惑っているけど、でもどっしり腰を落ち着けて近藤に相対しているというのかな。
それに対して近藤は今回の話を読んで改めて思うけど、近藤は徹頭徹尾あきらに心を揺さぶられっ放しだなぁ。
たまには意図的にあきらの心を揺らして見せてくれ(笑)。
今回の、会えないなら会えないで特に取り乱しもせずに淡々としているあきらと、あきらを大慌てで追いかける近藤という構図は、まるで二人の関係を象徴しているように思える。
気持ちが不動のあきらとしょっちゅう揺れてる近藤。微笑ましい、良いカップルだと思う。
果たして近藤とあきらの関係はどう展開するのだろう。
先が読めなくて嬉しいんだけど、やはり隔週はツライ……(笑)。
以上、恋は雨上がりのように第74話のネタバレを含む感想と考察でした。
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