第20話
はるかはあきらとの距離が離れてしまったことに思い悩み、しかしあきらとの距離を縮める術を見つけられないでいた。
一方、好きな人と仲良くなれる力があるというキーホルダーが欲しくて何度もガチャガチャを回すあきら。
目的のレアキーホルダーを手に入れたのは……。
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あきらと距離を感じているはるか
「え、はるか転校するの?」14歳のあきら。特に表情に変化はない。
「そ――― 近いんだけどね。」眉根を寄せて答えるはるか。
「どこ?」
「新杉田!」
「そこから通えばいーじゃん。 あと一年半なんだし」
はるかは、父に中学生の電車通学はダメと言われた、と答える。
今年の大会は別々になる、と言うあきら。
少しの沈黙の後。
志望校が風見沢高校だよね? とあきらに問うはるか。
「うん。はるかもでしょ?」笑顔のあきら。
「うん。」
二人は笑いあう。
「しばらく離れちゃうけど、また一緒になれるよね。」
あきら素っ気ないな。
中学くらいの時は仲の良い友達が転校するなんて言ったらもっと騒いだような気もするけど。
でも近場だし、目指す高校は一緒だし、何より少し離れた程度では友情は揺るがないという自信があったのかもしれない。
はるかが写真立てを手に取って眺めている。
「はるか早く――」
自身を呼ぶ声に返事をして写真立てを元の位置に置く。
離れてしまったあきらとの距離。
当時の思い出がよりそれを鮮明にする。
あきらが文芸文庫のコーナーで本の背表紙を見るともなく眺めている。
(お父さんはじゅーぶんがくが好きなんだって!)
あきらは勇斗の言っていたことを思いだす。
(純文学だよね…)
好きな人の好きなものが気になってしまうあきらがいじらしい。
(あきら…!)
「あれ? あきらちゃんじゃね?」
「声かけねーの?」はるかの背後から頭にぽん、と拳を乗せる眼鏡の男の子。
「……」購入済のラッピングされた本を抱えて黙っているはるか。
「?」はるかの様子がおかしいことに気づく男の子。
「そーいやお前、最近あきらちゃんの話しねーよな。」
「ケンカでもしたの?」
「してないよ! ケンカなんて!」はるかは男の子に顔を向けて強く否定する。
「じゃ、声かけようぜっ。」
否定してしまった手前断れずに「う…」と固まるはるか。
おーい、と声をかける男の子。
はるかは、あっ、と声をあげる。
「あきらちゃん」
振り向いたあきらの視線の先には満面の笑みを浮かべるユイがいる。
「トイレめっちゃ混んでた――」もれるかとおもた、と大げさに息をつくユイ。
その様子を見て笑うあきら。
「どっか入ってお茶しよ――」
歩いていく二人を後ろから見ているはるかと男の子。
「なんだ。一人じゃなかったのか。」
あきらちゃんの髪後でいじらせてー、と笑顔のユイ。
切らないならいいよ、と答えるあきら。
(知らない子…)
二人の仲の良さそうなところを後ろからじっと見ているはるか。
「……」
「行くよ!」はるかが歩き出す。
「あ、」おいていかれる眼鏡の男の子。
「それから姉をお前呼ばわりすなっっ!」
はるかは寂しいんだな。
あきらの親友だと思っていたのに距離が空いて、自分の知らない相手と楽しそうに会話している。
思春期の繊細な心。
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好きな人と仲良くなれるおまじない
能見台駅。
バス乗り場の停留所前のベンチにあきらが座っている。
あきらの前を楽しそうに話している二人の小さな女の子が通る。
女の子は時刻表を見て、あと次のバスが来るまで15分もある、と文句を言う。
「ねぇねぇ、このヘンなキーホルダー何?」髪を縛った女の子がぷくく、と笑いながら帽子をかぶっている女の子に問いかける。
「えっ、知らないのォ~~~?」とおどけたような笑顔をする女の子。
持っていると好きな人と仲良くなれると答える帽子の女の子。
ウッソだ~、という声に帽子の女の子は、席替えで4組の子が好きな男の子の隣になれたんだと話す。
ほしい、どこで買ったの、という質問に答える帽子の女の子。
そのやりとりにバッチリ耳を澄ましていたあきら。
小学生くらいの女の子の間で流行っているおまじないにもすがりたいあきら。
かわいすぎる。
あきらはしゃがみこんでガチャガチャの販売機をじっと見つめる。
とりあえず回してみるあきら。
出たのは白いキャラクター。
販売機のディスプレイには「まるみーキーホルダー」と銘打たれている。
全部で5種類+? とされている。
「シークレット!!」という吹きだしが黒いシルエットに?マークが入っているキャラから伸びている。
はるかがしゃがみこんでいるあきらを発見する。
「あ……」
あきらに声をかけられず、その場であきらを待つはるか。
待っている間、何回も何回もガチャガチャを回しているあきら。
「あきら。」
自身を呼ぶ声に振り向くあきら。
「あんたどんだけ回すの。」思わずツッこんでいたはるか。
バイト代無駄遣いしちゃいかん。
ただ、そのツッコミがいのある行動のおかげではるかが話しかけられた。
あきらのバッグには大量のガチャガチャが入っている。
「そんなにとってどーすんの?」あきれ顔のはるか。
「……」答えられないあきら。
「コンプした?」
「シークレットだけ出なかった…」
「ダブったのあげる。」はるかにいくつもガチャガチャを手渡すあきら。
「え”」
(…でも、おかげで声かけられた…)ホ…、と笑顔になるはるか。
隣のあきらを見ると、外の景色を見ている。
「あきらあのさ…」話しかけたはるかの声に「終点――終点――」というバスのアナウンスが被る。
「え?」とはるかの方を見るあきら。
はるかは「なんでもない。」と答える。
あきらとはるかが並んで歩いている。どちらもあまり表情に明るさはない。
セミが鳴いている。
「じゃああたし補習だから。」
あきらが笑顔ではるかに声をかける。
「はるか 部活がんばってね。」
え…と戸惑いを見せるはるか。
「あ…うん。」
はるかは校舎に歩いていくあきらの背中をみている。
どちらも似たような気持ちだと思うんだけど、あきらは逃げる、はるかは追う、だからはるかの方がつらそう。
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また一緒になれるよね
教室にはプリントに記入するカリカリという音で満ちている。
女子陸上部の部室。
ジャンケンで負けたはるかと石井。
お昼の買い出しに行くことに。
ファストフード店で部員の分を購入するはるか。
「あたしらジャンケン弱すぎ」ため息をつくはるかにですね、と笑って答える石井。
はるかがあきらが店内にあるガチャガチャに気づく。
こういうのって意識にあると気づくよね。
あれだけあきらが欲しがっていたものだからはるかは気づいたんだろう。
「あきら!」
頭上からする声の方を見上げるあきら。
「受けとって!」はるかが片手を上げてあきらに呼びかけている。
放られたものをあきらがキャッチする。
紙が入ったガチャガチャだった。
開けてみるとあきらが獲れなかったレアキーホルダーとはるかのメモ。
――私たちの友情は陸上だけじゃなかったよね!――
切ないね。直接言えないこの気持ち。
そこにはるかの姿は無かった。
はるかは体育座りでその場にしゃがみこんでいた。
あきらからは死角になっているので見えない。
(「また一緒になれるよね」……――)
中学2年の時の会話のなかのフレーズがはるかに響く。
早くはるかがあきらと心から笑いあっている光景を見たいけど、それはもっと後になりそうだ。
以上、恋は雨上がりのように20話のネタバレ感想と考察でした。
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