第68話
第66話のおさらい
公園で一人落ち葉を踏みしめて歩くあきらの脳裏に、活き活きとした表情で、自分のはるか先を歩くユイとはるかの姿が浮かぶ。
ユイとはるかに比べて明らかに前に進めていないと感じ、焦りと寂しさを覚えるあきら。
ガーデンに出勤し、近藤の姿を目にしてすぐに近藤に抱き着く妄想をするほどに寂しさを覚えていた。
そんなあきらの気持ちを露知らず、能天気に対応する近藤。
バイト中、客に笑顔で接客しているユイの姿をキッチンの近くから見ていたあきらの目には、ユイが日の当たる場所にいた。
そして、自分は未だに陰で立ち尽くしている。
休憩中、あきらは近藤に渡し忘れていた個人別のお土産であるしおりを近藤に渡す。
近藤は、ツバメの絵が描かれたしおりを見て、事務所の外にツバメが巣を作っていて、久保がそれを壊したことを思い出し、あきらに話す。
中々巣立ちの遅いツバメも最後には旅立った、という近藤に仲間と一緒に飛び立たなかったツバメの行く末を、自らの境遇と重ねて問いかけるあきら。
近藤はあきらの右足首を一瞥し、その地にとどまって得る幸せがあるかもしれない、と答える。
そして、近藤は、あきらに話していく内にいつしか自身にも言葉を言い聞かせていた。
自分のアパートであきらからもらったしおりを眺めていた近藤は、おもむろに立ち上がり、書斎に続くふすまを開く。
そして、書斎に灯りが灯るのだった。
前回67話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
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第68話
机の上の灰皿には吸殻が山と積まれている。
近藤は煙草を咥え、万年筆で原稿用紙に文字を書き続けている。
鼻から煙を吐く。
煙草の先の灰が重くなり、原稿用紙に落ちる。
灰が原稿用紙を焦がすのを見て驚く近藤。
「わっちちちっ!!」
原稿用紙を両手で持ち、目の前に掲げるとに空いてしまった穴から光が漏れる。
「朝か…」
近藤はカーテンから差し込む朝日に気づく。
外ではチュンチュンと鳥が鳴いている。
ガーデン。
あきらがオーダーを読み上げていると、スーツ姿の近藤に気づく。
本社に行く、夜に戻るとユイに伝える近藤。
その目の下にはひどいクマが出来ている。
久保は近藤の顔を見ながら、ひどい顔だと言ってあきらに、近藤が以前のようにファイルを忘れないように見送って、と頼む。
はい、と快諾し、事務所へ行くあきら。
あきらが近藤に寝不足ですかと尋ねると、近藤は否定せずに、しかしその理由は曖昧にしてごまかすように笑う。
抱えていたファイルを近藤に手渡すあきら。
(すごいクマ…)
近藤をじっと見つめる。
ありがとう、とファイルを受け取り、近藤は事務所の外への通用口から出て行く。
「じゃ、いってきまーす!」
その表情は楽しそうな笑顔を浮かべている。
あきらは入り口で近藤を見送る。
(だけどなんだが…楽しそう。)
弾むように歩いていく近藤の背中を見る。
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ガーデンに来た意外な客
何度も呼び鈴を押す客に呆れ気味の久保。
ユイが自分が行くと注文を受ける為の端末を手に急いで客の元に行く。
「はいはーい! ご注文お決まりでしょーかっー!!」
「店長さんいる?」
唐突にユイに尋ねた客はちひろだった。
事務所からフロアに戻るあきらはユイと久保が話しているのに気づき、どうしたんですか、と声をかける。
ユイは、なんかヘンなお客さんなの、と答える。
久保が、私が持って行く、とユイにとってきたオーダーを尋ねる。
「ハイボールおまたせ致しました。」
ちひろにトレイに乗ったジョッキを差し出す久保。
ちひろは頬杖をつきながら、ドモ、とだけ返事をしたあと、じーっと久保のネームプレートを見る。
久保は意味が分からず、ごゆっくりどうぞ、とちひろの元から離れていく。
ちひろはジョッキに口をつけて、ウイ、と片手を上げて挨拶する
どうでした? とユイが久保に問う。
久保は、別に普通だったと返す。
「それよりあの人、どっかで見たことあるのよね…」
久保はそう言って、顎に手を当てて思い出そうとしている。
ちひろは喫煙席で煙草をくゆらせながら、う~む、と長く唸る。
(年齢的に橘あきらは今のウェイトレスかと思ったが…ちがったなァ…)
まさか本当に男? と以前の近藤の下手な言い訳のような言葉と態度を思い出す。
煙を吐き出し、ちひろは灰皿に吸殻を押し付けると、ユイに向けて手を上げる。
「そこのお嬢さん。」
追加のご注文でしょうか、と笑顔のユイ。
「橘あきらくんっている?」
ちひろは、直球で聞きたい事を尋ねる。
![恋は雨上がりのように第68話 ちひろとユイ](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/68_05.png)
「橘あきらくん、ですか?」
ちひろに確認するユイ。
そ、と言ってひろはその名前をもう一度繰り返す。
(橘あきらくん? 橘あきらちゃんならいるけど…)
思考の後、ユイは笑顔で答える。
「橘あきらくんはいません。」
いないの!? と驚くちひろ。
はい! と言い返事をするユイ。
その様子に、ちひろはイスにもたれていた体がズリ、と横にずれる。
帰ろ…、と諦めてちひろが立ち上がる。
ユイは満面の笑顔で、ありがとうございました、とちひろに挨拶する。
キッチン前で、久保はまだ顎に手を当てたまま、まだちひろが誰だったかを思い出そうとしている。
あきらはホールを見てきます、とその場から動く。
ユイはちひろの会計をしている。
500円お預かりします、というユイの言葉も上の空で、橘あきら自体いない存在とはどういうことなのか、と悩み、考えていた。
ふと、ユイが笑顔で思い出したように言う。
「橘あきらくんはいませんけど、橘あきらちゃんならいますよ!」
久保はそのタイミングで客の正体が誰なのかを思い出す。
ちょうどレジ前を通りかかったあきらにユイが声をかける
颯爽とフロアを歩くあきらとちひろ目が合う。
大塚が、九条ちひろってあの小説家の!? と久保に向かって驚いていている。
この間テレビで見たから間違いないと言う久保。
久保、大塚、加瀬はキッチンから覗き込むように目を合わせて立っているちひろとあきらの様子を見守る。
レジ前で見つめ合うちひろとあきら。
「君が…橘あきら…?」
「はい…?」
問われるままに返事をするあきら。
ちひろは顔を歪ませると、ふらつきながら右手で顔を覆い、左手を前に掲げる。
「き、君いくつ…?」
![恋は雨上がりのように第68話 ちひろとあきら](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/68_06.png)
「17歳です。」
衝撃のあまり、その場に立ち尽くすちひろ。
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ちひろ、謝恩会にて意外な人物と会う
集学館文芸局謝恩会とプレートが掲げられた、人でごった返している会場。
ちひろは左手をポケットにつっこみ、グラスを持って不機嫌な様子で仁王立ちしている。
(17歳だァ?)
目元がピクピクと痙攣する。
「ち、ひ、ろ、ちゃーん」
ちひろの尻を撫でる手。
ギャー、と叫ぶちひろ。
パーティーに出席なんて珍しい、とちひろに背後から声をかけるのは和装で禿げたおっさんだった。
「あ…鱈小路(たらのこうじ)先生! お久しぶりです…」
ちひろは鱈小路先生と距離をとりながら挨拶する。
鱈小路先生はちひろを扇子でつんつんと突きながら、ちひろの「海辺の窓」の映画化を話題に触れて、調子がいいそうだね、と挨拶する。
![恋は雨上がりのように第68話 ちひろと鱈小路先生](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/68_07.png)
続けて、コッチの方はどうなの? お金は十分あるんだからさ、と小指を立てる。
ちひろは敬礼の真似をする。
「いえ、自分は小説が妻であり恋人であり子供でありますゆえ!」
見かけによらず真面目、もっと遊びなさいよ、と言う鱈小路先生。
ちひろは、ははは、と誤魔化しつつ失礼します、と早々にその場から退散する。
「っつたく、皆 金と色のハナシが好きだよなァ…」
くだらねぇ、と吐き捨てるちひろ。
「あ! いたいた!」
スーツ姿の編集者らしき男がちひろに向かって駆け寄る。
「九条先生ー!」
ちひろは男に、俺は帰る、つまらないと言う。
男は、え!? と驚く。
「その前にご紹介したい人が…!!」
誰? と問うちひろ。
「町田すい先生です。」
驚くちひろ。
(あの今をときめく新人作家か…!!)
ちひろは、なぜ世間に受けているのかわからない、と理解できなかった売れっ子作家、町田すいの姿を、自分がいけすかないと感じているチャラ男の姿で想像しながらも男の後をついていく。
「九条先生お連れしましたー!」
「えっ、九条先生…!?」
複数の人に囲まれる男が編集者らしき男の声に反応する。
目を見開くちひろ。
そこにいたのは学生服を着て、まだあどけない顔をした若い男の子だった。
「はっはじめまして! 町田すいと申します…!!」
オレンジジュースの入ったコップを持ち、ちひろの目を見ながらもたどたどしく挨拶する。
![恋は雨上がりのように第68話 町田すい](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/68_08.png)
「…学生服?」
指をさして呟くちひろ。
「17歳なんですって!」
天才ですよ、天才、とニコニコしながら耳打ちする男。
指をさしたまま停止するちひろ。
![恋は雨上がりのように第68話 ちひろ](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/68_09.png)
(なんなんだよ、今日は一体。)
心をかき乱されっ放しのちひろ。
町田すいは首に手を当て、へへっ、と無邪気に笑う。
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近藤、ちひろとの友人関係がガーデンでバレる
ガーデン。
戻りました、と近藤が事務所のドアを開くと、事務所内がざわついている。
不思議に思った近藤が何かあったのと尋ねるとユイが、あっ店長、と近藤に寄っていく。
「今日お昼に有名人が来たんですよ!」
「有名人?」
マフラーを外しながら答える近藤。
「小説家の九条ちひろ!!」
近藤は、気持ち目を見開き、口をへの字にする。
「え…ちひろが…?」
焦りの色を浮かべて呟く。
![](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/68_10.png)
近藤の反応を見て、ぽかんと口を開くユイと久保。
そのままの状態で二人は顔を合わせる。
久保は肘をテーブルに置いたまま、口元に手を両手を持っていく。
「やっぱり店長知り合いだったんだー!! どうして!?」
ハイテンションで近藤に尋ねるユイ。
「あ…いやぁ…大学の同期で…」
近藤は首元に手をあて、引き攣った笑いを浮かべる。
エッ、と肘をついて煙草を咥えていた加瀬が反応する。
「店長って早大なんスか…」
恐る恐る尋ねる加瀬。
「え? あ、うん」
近藤は、実はそう(なん)だいなんつって…と続ける。
煙草を持ったまま、ぽかんと口を空ける加瀬。
「吉澤!!」
加瀬は吉澤に大声で呼びかける。
「いいかよくきけ! 良い大学に入るだけじゃダメだ!!」
吉澤の肩を掴み、必死の形相で説く加瀬。
「その先のこともちゃんと考えろ!! それが進路だ!!!」
吉澤は、ウス、と加瀬の迫力に押されながらも答える。
![恋は雨上がりのように第68話 加瀬と吉澤](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/68_11.png)
サインもらえばよかったー、ホントね~、と盛り上がる事務所内。
近藤は一人その場に立ち尽くし、固い表情をしている。
笑顔で盛り上がっている久保とユイをよそに、あきらはいつものポーカーフェイスで一人淡々としている。
(ちひろと橘さんが…?)
青くなる近藤。
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感想
来た来た! 個人的にはこの展開を待っていました(笑)。
やはり「橘あきら」を探りにガーデンに来た。
久保ではないかと見当をつけていたのには笑った。
久保と近藤は、さながら捕食者と獲物みたいな関係だよ(笑)。
そもそも、ちひろは第58話で近藤が橘あきらという人間とメールのやりとりをしていることを知る。
![](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/02/58_05.png)
ためらいメールをするような相手が誰か、その内きっと確かめるんだろうな、と思っていたけど、ここで来ましたか(笑)。
男性社員だと苦し紛れの言い訳で誤魔化し、しかもその場で、女だろ、と喝破された苦い経験があるだけに、近藤の焦燥は手に取るようにわかる。
しかも、多分近藤が恐れていることである、あきらが17歳だということまでちひろにバレてしまった。
まだ近藤はそれを知らないが、近藤の憔悴ぶりから、そこまでバレていると覚悟しているかな(笑)?
ちひろは、17歳です、と真っ直ぐ自分を見て答えたあきらに衝撃を受けていたし、次回はものすごく面白いことになりそう。
近藤とちひろの間でどんなやりとりが交わされるのかがマジで楽しみ。
これまで、あきらと近藤がそういうことになっているのを知っているのは加瀬しかいなかった。
そこにちひろが加わることで何が起こるのだろう。
とりあえず、ちひろがあきらに惚れた様子は見られなかったから、とりあえず少女漫画的なドロドロ展開は無いと確定。
謝恩会の会場で鱈小路先生に指摘されていたようにちひろは外見に似合わず真面目だから、からかうのはそこそこに、近藤に対して真面目な忠告をするかも?
いや、しばらくは近藤をからかいまくって楽しむかな(笑)?
困る近藤の姿が面白いから、ぜひ、からかう方向を期待したい!
あと、17歳と45歳の恋は興味深い題材だけど、近藤を大切な親友だと思っているであろうちひろは、まさかこれを作品に活かそうとはしないだろう。
勝手に作品に反映して近藤との仲が悪くなるような胸糞が悪くなる展開は勘弁して欲しい。
大丈夫だろうけど、この材料では可能性としてはありうるんだよなぁ。
ちひろは真面目で、近藤を大切な親友だと思っているだろうし、メタ的な視点からも付け加えれば、そもそもこの作品のカラーに合わないからやらないだろうけど、と思う。
あと、今回の話で加瀬が吉澤に対して意外と面倒見が良いのも好き。
前々からちょくちょくそういう面は見せていたけど、吉澤は自分の事を真剣に心配してくれてる先輩が出来て良かったなぁと思う。
あきらを脅迫してデートに連れ出した時に底値を打って以来、加瀬株は上昇の一途だなぁ(笑)。
とにかく次の話も楽しみ。
二週間が長いよ……。
以上、恋は雨上がりのように第68話のネタバレ感想と考察でした。
次回第69話のネタバレ感想と考察の詳細は以下をクリックしてくださいね。
![](https://xn--p8jl8gkd6mma8251dul8ave4h.biz/wp-content/uploads/2017/07/69_04.png)
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