第43話
放課後、学校で編み物に夢中になり、バスの到着時刻に遅れそうになったあきらは坂道を駆け下っていた。編み物の毛糸の玉を坂道に転がし、必死に糸を集めていると、正面から来た外周中の女子陸上部員の中の一人だったはるかが毛糸の玉をキャッチしようと方向転換する。
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あきらとはるかをつなぐ糸
スマホの時刻を見てバスの時間が迫っているのを知り、バス停に急ぐ。
バス停に向かって坂道を駆け下っていくあきら。
腕に通しているバッグから毛糸の玉が飛び出し、坂道を転がっていく。
転がる毛糸の玉をキャッチしようと追いかけながら、解けた糸を一生懸命手繰って集めているあきらの前方に外周をランニング中の陸上部が近づく。
はるかが、必死に糸を集めているあきらに気づき、足元を転がっていった毛糸の玉を追いかける。
「え?」
急に方向転換したはるかを石井が振り返る。
「喜屋武先輩!?」
「先行ってて!」
石井に告げて坂を下るはるか。
あきらがはるかに気づき、その場に止まる。
転がっていく毛糸の玉を捕えるはるか。
ふう、と毛糸の玉を拾い上げ、あきらに振り向く。
あきらははるかの近くまで糸を拾い上げて近づいていた。
目が合う二人。はるかとあきらは糸でつながっている。
あきらは目を伏せる。
そんなあきらを見て、口元に笑みを作ってはるかはあきらに拾った毛糸の玉を渡した。
ありがとう…、と受け取るあきら。
あきらは解れてしまった毛糸を全てトートバッグの中にしまう。
「珍しいね、あきらが編み物だなんて。」
トートバッグを覗き込むように見ているはるか。
「何編んでるの?」
「マフラー…」
あきらの答えから、夏祭りの日に見た近藤とあきらの様子を思い出すはるか。
「うまく編めるかわからないけど…」
あきらは目を伏せたまま続ける。
少しの間があって。
「編めるよ。」
はるかの言葉に顔を上げるあきら。
「マフラーだったら誰でも編めるよ! 編み物得意なあたしが言うんだから間違いないっ!」
去年何てウチのチビたちに手袋編んだし、と自分の胸に手を当てる笑顔のはるか。
「わかんないとこあったらいつでも聞いてよ! ねっ!」
一瞬の間。
笑顔を浮かべているあきら。
「ありがとう、はるか。」
はるかは笑顔であきらを見ている。
走り出し、あきらに振り返る。
「じゃあ、あたし行くね!」
「あ…うん…」
離れていくはるか。二人の距離が開いていく。
坂道を駆けあがっていくはるか。その後ろ姿を、あきらはその場に立って見ている。
はるかの、あきらとの関係を途切れさせたくないという思いが見てとれる。
近藤に渡すマフラーだと直感してもそれを咎めずに、あきらに肯定的な言葉をかける。
てっきり気まずい思いをしてしまうかも、と構えていたあきらを包み込むような対応だと思う。
二人の間にまだ糸はつながっている。
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電車の中で編み物を教えてくれた女性
あみものの教本と睨めっこして、結局良くわからない。
む~~、と編み物の続きをはじめるあきら。
「違う違う、そこはすくっちゃダメ!」
隣から声がかかる。
「あ、」
あきらが声のした方を見る。
「ごめんなさい。つい……」
口元に手をかざして笑う女性がいた。
「あのね、そこの目をすくうの。」
笑顔で指摘する女性。
ちょっと貸してみて、とあきらから編み物を預かり、作業する。
「ホラ! 簡単でショ?」
女性があきらに編み物を返す。
ありがとうございます、と礼を言うあきら。
「ごめんなさいね~~おせっかいで~~」
頬に手を当てて笑う女性。
笑顔で目を合わせる二人。
「編み物するのははじめて?」
「はい。」
「自分用?」
女性から視線を外すあきら。
「プレゼント用に…」
「いーなぁ」
ひゃ~~~、と女性が頬を染めて大きなリアクションをする。
周りに乗客がいることを思い出し、ごめんなさい、とあやまる女性。
「プレゼントって……恋人?」
女性は笑顔でキャ、と笑いながら聞く。
「恋人じゃないけど…好きな人…です。」
照れながら答えるあきら。
笑顔を浮かべてあきらを見ている女性。
隣のあきらから視線を外すように前を向いて、目を閉じる。
「うん…そっか…」
「おばさんも昔編んだな――――好きな人にマフラー。」
「お世辞にもいい出来とは言えなかったけど…夢中で編んだわ…」
「その人、喜んでくれましたか?」
あきらは女性を見ながら笑顔で問いかける。
女性は閉じていた目をゆっくりと開く。
「もう 忘れちゃった!」
フフッ、と女性はあきらに笑顔を向ける。
あきらはその様子を黙って見ている。
女性は結構編み物するんだなぁ。
おせっかいで、なんて自分を貶めるようにいうけど、今の時代それはとても貴重。
あきらとのやりとりから、女性のみずみずしい感性を感じる。
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女性の電話の相手
電車のアナウンスが入る。
「あらヤダ! 降りなきゃ!」
慌てた様子を見せる女性。
「じゃあ、ごめんなさいね。急に話しかけちゃって。」
笑顔をあきらに向けつつ立ち上がる女性。
「あっ…ありがとうございました!」
電車を降りようとしている女性にあきらがお礼を言う。
一瞬あきらをじっと見る女性。
「健闘を祈る!」
女性は降りる直前、あきらに向けて、笑顔で親指を立てる。
前に向き直るあきら。
「あ、もしもし勇斗? お母さんだけど、今晩、何食べたい?」
携帯で話している女性。
「なになに? ハンバーグ? オッケ――――!」
――ドアが閉まります。
ドアが閉まる。
あきらは目を閉じている。ホームでは女性が歩きながら携帯で話している。
女性の電話の相手は勇斗。
ということは離婚した近藤の元妻……。
良い女性と縁があるなぁ、近藤さんは。
今後、あきらがこのことを知る機会があるのだろうか……。
修羅場はイヤだな。
以上、恋は雨上がりのように43話のネタバレ感想と考察でした。
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