第22話
ふと思い立って図書館に向かうあきら。そこで偶然、本を探している近藤と出会う。おすすめの本を質問してくるあきらに、近藤は本をあまり読まない人の場合、本はおすすめされて読むのはおすすめしないよと言われてしょげてしまう。
前回19話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
図書館にて
「……」
静かに目を閉じ、開く。
あきらが玄関で靴を履いている。
「あら、どこ行くの?」あきらに問う母。
「図書館!」あきらは母の顔も見ずに答える。
母が「ま、めずらし。」とつぶやく。
何かに呼ばれるように図書館に向かうあきら。
これも運命なのか……。
近藤との運命的な出会い
晴天。セミが鳴いている。
後頭部に目立つ円形脱毛。
本棚の前に立っている近藤を見つけて驚くあきら。
背後の気配に気づき近藤が振り返る。
「あれっ」あきらに気づいた近藤が素っ頓狂な声を上げる。
しーっと男性に注意を受ける近藤。
(メガネ…)眼鏡をかけている近藤の新鮮さにあきらは感動を覚えている。
細かい反応が描かれていて面白い。
好きな人の変化は些細なものでも大きく反応する。あきらはそういう女性のようだ。
良くここに来るんだ、借りられないけど、と言葉を続ける。
宿題? と図書館に来た理由を聞かれたあきらは頬を染めながら「純文学を探しに…」と答える。
一瞬の溜めのあと、近藤は「橘さんも純文が好きなの!?」と喜びを隠せない様子で問いかける。
しーっ、とさっき注意された男性から再び注意を受ける。
近藤はビクゥッ、として注意してきた男性に平謝りする。
そんな近藤を後ろから見つめるあきら。
近藤にオススメの本を尋ねるあきら
「あ、あの…」あきらから声をかけられて、近藤は頭を下げた状態であきらの方を見る。
「オススメの本とかありますか…? これは読んどいたほうがいいよっていうのとか…」一生懸命問いかけているあきら。
「その…」
近藤は、そんなあきらの顔をじっと見つめる。
「……」
近藤は、深くお辞儀していた体勢から直る。
「普段、本はあんまり読まない?」
にこやかな笑顔であきらに問いかける。
「…はい。」頬を染めて返事するあきら。
笑顔であきらを見つめたあと、近藤は、本は一方的に勧められて読むものじゃないと諭すように言う。
「特に、読み慣れていない人には。」
本棚から本を探す近藤。
もしその本が合っていなかったら読み進めるのが苦痛になり、本が嫌いになる。
本棚から抜き出した一冊を開く。
近藤の言葉にあきらはしゅん、となってしまう。
きっと理想はどんな本が好き? 私はこれ、と恋人みたいなやりとりがしたいんだろうけど。
せめて近藤の好きな本を聞きたかったあきらは思ったようなやりとりにならなくてしょげちゃったと。
うーんかわいい。
近藤の言葉に反応するあきら。
「普段、読書をしない橘さんが図書館へ来たっていうことは、どこかで橘さんを呼んでいる本があるのかもしれない。」
「それはきっと、今の橘さんに必要な本だよ。」
滔々と語る近藤の話をじっと聞いているあきら。
「幸い、ここは中央図書館だ。まさに本の海!」
近藤は、笑顔で人差し指を立てる。
「見つからないものはないさ。」
それだけ言って、手に取っていた本を再び読み始める。
本に囲まれている近藤はガーデンで働いている時よりかっこよく見える。
ガーデンにいる時より落ち着いている印象。
スポンサーリンク
本の水族館
日本の小説の棚の前にいるあきら。
(…本の海…)じっと本棚を眺めている。
あきらは近藤の横顔に視線を向ける。近藤は静かに本を読んでいる。
(海っていうより…)
(本の水族館みたい。)
静かな図書館という環境、じっとその場に立って目の前の本に夢中になる。本の水族館。なかなか面白い例えだと思う。
ブースで本を読んでいる近藤が時計を見る。
(あ、そろそろ閉館だ…)
あきらが本を見つけたかどうかを気にしながら眼鏡を外す。
「……」しばし座ったまま止まる近藤。
(店長のこともっと知りたいです)
(オススメの本とかありますか…?)
近藤は、あきらの言葉を思い出す。
(あれ? もしかして…)ちょっと照れる近藤。
(うぬぼれすぎか。いくらなんでも。)大体俺が純文好きって知らないハズだし…。
近藤が立ち上がる。
それで正解なんだよなぁ。
いいなぁ……。
見つけた本
手に取って開いているのは表紙にアルパカと書いてある本。
(写真集は読書に入らないよね…)
何か見つけたあきら。本棚から一冊抜いて表紙を眺める。
「橘さん。」
近藤があきらの横から声をかける。
「あ…」今度を見るあきら。
「そろそろ閉館だよ。」近藤はあきらに笑顔で優しく伝える。
なにか見つかった? という近藤の問いにあきらは夏目漱石の坊っちゃんと写真集と答える。
近藤は、いいね、坊っちゃん! とニコニコしている。
何か読みますかと笑顔で近藤に問いかけるあきら。あきらは本を借りるためのカードを持っている。
「一緒に借りますよ。」
「本当!?」
嬉しそうな近藤。
「じゃあせっかくだからお言葉に甘えて…」
そう言う近藤の目が「おすすめの書」とディスプレイされている棚に止まる。
近藤は棚の近くまで寄って一冊の本をじっと見ている。
「その本ですか?」笑顔で確認するあきら。
「あ、」我に返る近藤。
「こちら3冊でよろしいですね。」
受付の女性から確認されるあきら。はい、と同意する。
あきらは、チラ、と隣の近藤の顔を見る。
その表情は何かを深く考えている。
そんな近藤を借りる手続きの間、あきらはじっと眺めている。
借りる本を発見してから明らかに雰囲気が変わった。
あきらは近藤の変化を敏感に感じ取っている。
「……」
沈黙が二人を包む。
「じゃあ、本ありがとう。」近藤は本を掲げてあきらにお礼を言う。
「あ…」
帰っていく近藤。
その場に立って、近藤の背中を見つめるあきら。
電車に揺られている近藤は借りてきた『波の窓辺』の表紙を眺めている。
(呼ばれたのは俺のほうか? ちひろ…)
写真集
夏目漱石と写真集と答えるあきら。
へー、と感心したような返事をする母。
「ちゃーんと読みなさいよ~」
自室に入ろうとするあきらに母が声をかける。
「本はムリに読んだらダメなんだって!」
早速近藤からの受け売りの言葉を使うあきら。
「え――?」誰が言ったのそんなこと、と理解に苦しむ母。
あきらはベッドにバサッと本を落し、座る。
(店長、最後元気なかった…?)
(『どこかで橘さんを呼んでいる本があるのかもしれない。』)
あきらは近藤の言葉を思いだす。
借りてきた坊っちゃんを横にどかすと、下に隠れていたのは「RUN」というタイトルで女性ランナーが表紙の写真集。
あきらはベッドにうつ伏せになり、RUNという写真集を開く。
(それはきっと、今の橘さんに必要な本だよ。)
あきらが呼ばれた本は女子陸上選手の写真集だった。
陸上への思いがまだまだあきらの中に燻っているということなのか。
頑なに陸上との関わりを避けようとしているが、ずっと続けてきたことは中々割り切れるものじゃない。
以上、恋は雨上がりのように22話のネタバレ感想と考察でした。
次回22話の詳細はこちらをクリックしてくださいね。
コメントを残す