第31話
小説家のちひろ登場。思い出の店で久々に再会した二人は学生時代の話に華を咲かせる。近藤は今も小説を書いていることをちひろに問い質され告白する。二人の変わらぬ友情を確認した一夜。
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待ち合わせ
入店しようとするとちょうど出てきた若い女性客とぶつかってしまう。
「すっ、すみません」地面にバサバサと本やノートが落ちる。
「すみません…」近藤が拾い上げた本は『波の窓辺』。
女性客に渡すとサイン本~、とご機嫌な様子で去っていく若い女性たち。
その様子を見送る近藤。
入店すると笑い声といらっしゃいませ、という挨拶。近藤は思わずうるせっとつぶやく。
店員に待ち合わせだと告げると奥に通される。
歩いていく道中で若者たちが騒いでいる様子を近藤は目を点にして見ている。
「!」近藤が待ち合わせしていた人物と出会う。
「ちひろ…」
「よう。」長髪で眼鏡の男。あぐらをかいて手には煙草を持ち、近藤を笑顔で迎える。
図書館で借りた『波の窓辺』を書いた近藤の知り合い。
イケメンです。
近藤は、なんでこの店なんだよ、といってテーブルを挟んでちひろの前に座る。
俺たちといえばここだろ! とちひろは笑顔で即答する。
「…なつかしいな…」若い客で賑わっている様子に思わず近藤から声が漏れる。
ビールを注文したちひろ。
あ、あと…と注文に付けくわえる近藤。
運ばれてきたのはビールと味噌でんがく。
「そうコレコレ!」近藤のテンションが高まる。
「『どんでん』の味噌でんがく!!」
「俺たちといえばコレだろ。」ちひろがニヤリとする。
近藤はおいしそうに味噌でんがくを食べる。
「お前から連絡よこすなんて思わなかったよ。」
「10年ぶり…くらいか。元気だったか?」
「まぁ…お前のこと思い出すきっかけがあってな…」近藤は腕組をしてテーブルに肘を乗せて答える。
ちひろは、へぇ、と一言。
10年ぶり。よく連絡したなぁ。
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「まぁな。」ちひろは手酌で自分のコップにビールを注いでいる。
「さっき店の前でお前の本持った若い子がいたぞ。」
「ハハ。」
「お前は興味ないかもしんねーけど、俺のファンにも若い子がいるんだよっ。」ヒヒヒと笑うちひろ。
「確かにまぁまぁ面白かった。」
近藤の一言にちひろの表情が変わる。
「読んだのか!?」傾けようとしていたコップを戻す。
「読んだよ。」近藤は淡々と答える。
「わざわざ買って!?」
「いや。」
「え!?」
「図書館で借りた。」
「……」頬を紅潮させているちひろ。
「フ―――――ン。」
「面白かった?」
「だからまぁまぁだってば。」
「なっ、なんだよまぁまぁって! 超絶面白いだろ!!」
「まぁまぁだな。」
「さてはアメゾンで星ひとつつけたのオメーだな!?」
「つけてね―――――よ。」
なんだなんだ、と二人のおっさんの騒がしいやりとりに注目する若い客や店員たち。
実際、創作を生業としている親しい人との会話ってこんな感じになるのかもしれない。
アマゾンの評価の話とか面白そうだなと思う。
「今日な、久しぶりにお前と会うってんで、良いモン持って来たんだ。」
何のことだ? と不思議がっている近藤の前に置かれたのは大学時代の同人誌。
目を見張る近藤。
なつかしい、よくまだ持ってたな、とテンションが上がる近藤。
近藤が言葉を発する度に「だっろー?」とちひろ。
思い出話に花を咲かせる近藤とちひろ。
こういうの盛り上がるだろうな。
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同級生

近藤の変化を感じたちひろはどうした? と問う。
近藤の開いていたページにはみどりと書いてある。
「あ――――みどりちゃん。」ちひろが言葉を続ける。
「お前、離婚して何年目? 今でも会ってたりすんの?」
う”…、と近藤の表情が強張る。
近藤は、会ってない、たまに息子の事で電話で話すくらいと答える。
俺とのインド旅行をやめて結婚し、俺はインドで書いた小説で文壇デビュー、とちひろはケケケケと笑う。
あの時は悪かったと近藤があやまる。
結婚相手は同じサークルの女性だったんだなぁ。結構長く結婚生活を送っていたってこと?
近藤も旅行に行ってたらちひろとデビュー出来ていたのだろうか。
いや、ひょっとしたらちひろも文壇デビューできてなかったかもしれない。
「若かったよな、みんな…」
「……」ちひろは煙草をくゆらせて、近藤をじっと見る。
「お前、今も書いてるんだろう?」
「!」
その顔は当たりだな、とちひろは近藤の表情の変化から察する。
「書いちゃいるけど…最後まで書ききったのなんてもう4、5年ないし、誰かに見せる予定もないけどな…」
目を伏せたまま近藤がクッ、と笑う。
「こんな話を人にするのは久しぶりだ。」近藤はちひろを見る。
「今の俺の周りには、俺がコソコソ小説書いてるなんて知ってる人間もいないしな…」
「別に、人にペラペラ話すことでもないだろ。」ちひろが頬杖をついて、中空を見ながら言う。
「そうだな…」一瞬の間のあと、近藤は目を伏せ答える。
「それに! 話したくなったら俺に話せばいーだろ!」のめ! とちひろが近藤のコップにビールを注ぐ。
注がれたビールを見て苦笑する近藤。
「もうイイ年した大人(オッサン)だもんな…」コップを口につける。
ビールを追加するちひろ。
友人に会うと当時の感覚に戻れる。
自分も、相手もそれは同じ。
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途中までタクシー乗ってけというちひろに近藤は酔い覚ましに歩くと答える。
タクシーの窓から顔を出したちひろが、乗ってけって、と言い、近藤は歩く、と答える。
ガンコ者~、としかめっ面を見せるちひろに近藤は笑う。
あ、それからな、と前置きする近藤。
「お前の小説、ヒロインの女子高生の描写がイマイチだな。」
「ナニィ~~~~? おめーにJKの何がわかるんだ!」近藤に食って掛かるちひろ。
「えっ…ファ、ファミレスの店長ナメんじゃねーよ。」ちひろの意外な反応に戸惑う近藤。
近藤は誰よりも分かってる(笑)。
ちひろはまだそれを知らない。
「あ~~~~スネちゃって、大人気ねーの~~~」近藤は笑いながら両手でちひろを指してからかう。
真顔になるちひろ。
「俺たちは大人じゃねーよ。同級生だろ。」
車が発進する。ちひろは去り際に微笑を浮かべる。
「また連絡よこせよ!! あと、10円ハゲ治せよみっともね――――!!」
走り去ったタクシーをぼーっと見送る近藤。
若者の騒ぐ声で近藤は我に返る。騒ぐ若者とそれをなだめる若者の後姿を見ている。
近藤は自分たちの若かりし頃を思い出す。
切ないけど、でも年を経たからこそ得て積み上げたものもある。
以上、恋は雨上がりのように31話のネタバレ感想と考察でした。
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