第46話
あきらは体育委員会の会合中のはるかを廊下に呼び出して、みずきの素性を聞く。みずきのタイムが気になるあきらに、みずきは「まだ」あきらの記録を抜いていないと挑発するような話し方をする。あきらの脳裏にはバイト中もみずきの言葉が響くようになっていた。
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あきらがはるかにみずきの事を聞く
体育祭実行委員会と書かれた貼り紙がされた教室のドア。
「こりゃあ明日の体育祭は中止だなぁ。」
「予備日は来週だっけか。」
ジャージ姿の男性教師が腕組みをして隣の女子生徒に問う。
女子生徒は、そうです、と答える。
「……」
はるかは窓の外を見ている。
教室のドアをノックする音がして、失礼します、と開けられる。
そこには一枚の紙を持ったあきらがいる。
はるかがあきらに駆け寄る。
あきらは紙をはるかに渡す。
紙は体育祭の出場者のリストだった。
紙を見て、あー…うん、リョーカイと答えるはるかに、あと、と言葉を続けるあきら。
その言葉に、はるかは紙からあきらへと視線を移す。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
あきらの言葉に、はるかとあきらは廊下に出る。
「流石に、この天気じゃジャズ部も帰ったか。」
楽しそうに言うはるか。
「んで何? 編み物のこと?」
笑顔を浮かべてくるっとあきらに向き直る。
「倉田みずきのことなんだけど。」
あきらは表情を変えずにはるかに聞く。
はるかから笑顔が消える。
最近偶然知り合った、どんな子? とはるかに問うあきら。
はるかは目を伏せて答える。
「倉田みずき、高1。中3の時に京都からこっちに転校してきた。」
「新人戦200Mの記録保持者。」
はるかはあきらと目を合わせない。
「こないだの記録会でも自己新出してた。」
「タイムは?」
あきらははるかから目を逸らさず、間髪入れずに問いかける。
「あきらの記録は、まだ抜いてない。」
雨の音が聞こえる沈黙が一瞬、場を支配する。
「ありがとう。」
目を上げたはるかの視線の先であきらは背中を見せて、離れていく。
その場に立ち尽くし、あきらを見送るはるか。
(リレーのアンカー、去年はあきらが走ったのに…)
手元の紙を見る。
(去年だけじゃない、今まで、ずっと……)
アンカーの項目に書かれている名前は橘あきらではない。
場面転換。ガーデン。
やはりみずきのことが気になっていた。
陸上への捨てきれない想いがあることがわかる。
みずきは、あきらの心に確実に変化を生じさせた。
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もう、走らなくていいんだよ。
料理を持って客に出すあきら。
空になった手で、今度は食事を終えた後の食器を片付ける。
仕事をしながらあきらが思い出すのは、あの日のみずきの足首の傷跡、そして最後の無言の訴えの表情。
ごしごしテーブルを拭くいていたあきらの腕が徐々に止まっていく。
「……」
完全に作業を停止しているあきら。
子供が店内を走って、あきらのおしりにぶつかってしまう。
母親が謝り、気を取り戻したあきらは、いえ…、と笑顔で答える。
テーブルに視線を戻すと何かを見つける。
「店長!」
近藤に駆け寄るあきら。
「4番卓忘れ物です!」
あきらの手にはスマホがある。
「え”っ。」
レジチェックをしていた近藤がギョッとする。
店の入り口に立っている二人。
あちゃ~、あの赤いカサのお客さんだ…、と手でひさしを作って見ている近藤。
あきらはスマホを持って近藤の隣に立っている。
お客様―――ッ!!、と近藤が叫ぶ。あきらは呆然と立っている。
…ダメか。雨の音で届かないや、と諦め気味の近藤。
あきらの目から光が消える。
「もう、走らなくていいんだよ。」
あきらの目に光が戻る。
「え?」
その言葉にあきらが近藤を見る。
あきらの方を向いていた近藤とあきらの視線が合う。
静かな笑みをたたえている近藤。
スマホを片手に、近藤の顔を呆然と見ているあきら。
近藤が頭に手を当てて笑う。
「ホ、ホラ、前に忘れ物を橘さんが走って届けてくれたことがあったじゃない?」
「まー、こんな雨じゃ、その…走らないだろうけども…」
あきらが近藤から視線を外すように前を向く。
「あー…はい…」
「……」
そのあきらの横顔を見つめる近藤。
車で届けて来る、と近藤があきらの持つスマホを持つ。
「大丈夫…かな?」
はい、と口元に笑顔を浮かべるあきら。
近藤が入り口を開けて店内に入る。
あきらは店内に入らずその場に立っている。
「……」
あきらの様子を気にする近藤。
雨は変わらず強く降っている。
立ち尽くしているあきら。
(どうして)
脳裏に浮かぶあの日のみずきの言葉。
(どうして走れへんのですか)
あきらは下を向いたままみずきの言葉を、そして表情を思い出す。
(どうして…――)
もう、走らなくていいんだよ。
近藤の言葉は今この瞬間に向けての言葉だが、あきらからすればそれは陸上に戻る必要はない、という意味でもある。
あきらはこの近藤の言葉に本来救われていたはずだった。
しかし近藤からの言葉を聞いたあとでもあきらの脳裏にみずきの言葉ばかりが響く。
必死に陸上から身を置こうとしているけど、結局あきらはどうしても陸上からは逃げられないんだろう。
果たしてあきら笑顔を取り戻すのはいつなのか。
スッキリしない、辛い展開が続く。
以上、恋は雨上がりのように46話のネタバレ感想と考察でした。
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